shamigashu

@shamigashu
日々の呻き
No.669, No.668, No.667, No.666, No.665, No.664, No.663[7件]
  • Posts
  • Media
  • Archives
  • Tags
#マクチハ おわらないよ〜なので進捗はらせてくれ

 新しく建てられたショッピングモールでは老若男女、人間から強化人間にサイボーグと種の坩堝が蠢き賑わう。マキナは中央に置かれたモニュメント近くのベンチに腰掛けてピンクの触角を追いかけてはタール染みた感情のままに溜め息を繰り返していた。数年が経つというのに、数年しか経っていない、どちらもマキナの本心であり折り合いがつかない憎悪と懇願だ。喧騒の中から強化人間の子供が近寄ってくる。ディスプレイに映るマキナの眉が顰められ、足下に蹲った子供を目で追うと靴の側にはクラシックな形のミニカーがひっくり返っている。子供の指がミニカーを摘み慌てた様子でマキナから離れていく。さんざめく影から掛け声が飛び出した。子供を呼んでいるのだろう。走り去る背中の頼りなさに、手繋いどけよ、とマキナは毒づいた。手を繋いでおけばよかった。ずっと。一瞬でも離すべきではなかった。マキナは体を丸めるように頭を抱えた。そんなことをしても何も解決はしない。彼女はいま楽しげな声の中でただひとりであった。

 ***

 造りかけのまま放置された建造物の数々は今や立派な不法入星者のたまり場となって、惑星連合も目をつぶっている状態であった。独立戦争をきっかけに噴出した数々の争いの中、まともに生活が出来なくなった者たちの漂着場所としても名高く、つまるところはゴミ捨て場一つくらいは置いておこうということなのだろう。頽れた吹き溜まりのひとつ、ある部屋の中では姿見の前に素体そのもので立つサイボーグがいた。衣服とウィッグが床に散らばって、なにもつけられていない機械造り体、その後頭部には宇宙軍が契約している情報処理用量産型機体の型番が刻印されている。顔部分に取り付けられたディスプレイは忙しなくテキストが表示されては消えていく。
「宇宙軍情報部統一演算課MX515型1940番、」
 煤と埃、砂にまみれた部屋に取ってつけられたドア代わりの鉄板が叩かれる。鈍い音が数度繰り返されてから、鉄板が動かされた。
「またやってんのかよ」
 赤いジャケットを着込んだサイボーグは、飛び込んだ光景に慣れた呆れと共に声をかける。
「おい、マックス。仕事だぞ」
 自身の経歴を諳んじていたサイボーグの音声デバイスから、切り替え音が二度鳴った。ディスプレイが点滅して、視覚用部品のライトが灯る。
「うそぉ、連絡受けてないよ」
 戯けた仕草で訪問者に向き直ってから、マックスは「準備するからちょっと待って」と床に散らばっていた服を手に取ると、着いた汚れを落とすように振りかぶる。着々と服を着込み、ウィッグを被りながら改めて姿見に向かうと己の名を繰り返す。
「オーケー、オーケー。お待たせしました、カートくん」
「いいけど。通信切んのはやめろって」
 社長ちょっとキレてたぞ、とカートは付け足した。錆びた階段は踏み出すたびに大げさな音を立てて、今にも崩れますといわんばかりに軋んでいる。マックスはカートの肩に腕を回して凭れかかると冗談めかした謝罪を発する。大型機体に寄りかかられても、陸軍特注の近接戦闘用機体は微動だにせずに受け止めた。
「ほんとだぁ、ヤバぁ。俺今度こそスクラップにされちゃうかも」
「なんねーよ。俺らまだ使える道具なんだから」
 カートの自虐めいた言い草にマックスは肩を揺らして笑い声を選んだ。
「砂糖中毒のノータイム暴力サイボーグなのに? 自己評価高いねぇ!」
「うぜぇー……自意識混線ハリボテのゴミがよ……」
 砂利道に停められていたトラックに乗り込みながら、マックスはいよいよ大音量で笑った。釣られて笑い声を発したカートは握りかけたハンドルを手放すと「席変わって」と運転席と助手席を交互に指さす。
「中毒だから。吸うんで」
 受信した位置情報を確認しながら「時間までに抜ける量にしてよね」とマックスは肩を竦めた。

 砂糖を吸い込みながら助手席でだらけるカートが「いつまであそこ取っとくんだよ」とぼやいた。脳と視神経の接続が上手くいかないのだろう、眼球からは照準を合わせようとする動作音が忙しなく鳴っている。「あと12時間しかないんですけど?」質問に答えず嫌味を返せば、舌打ちが車内に響いた後シートが倒される音が鳴った。走行音とついに落ちきったカートの唸り声だけが小さく聞こえる。マックスは自動走行に切り替えると勝手に動くハンドルに手を置いたまま、吹き溜まりに用意した部屋を思い返す。いつまで使うのかなんてこと分かりはしないのだから答えようもない、マックスと噛み合う何かが別に存在するのなら放置するだけだ。そんなものが生れるのかが問題である。カートよろしく砂糖で誤魔化せればよいが、マックスが求めるものは自分だけが知るものだ。
「お、おまえ1940番だろ」
 狭苦しく古びたアパートの一室、未だ砂糖酔い状態のカートに殴られディスプレイが半壊し、腕を引きちぎられたサイボーグがマックスに気がついたとき縋るように声を出す。自重を低く保って軽く上半身を揺するカートが「るせぇなあ」と苛立たし気に殴りつける。声が響くのだろう。言わんこっちゃない、マックスは産業スパイと露見し処分依頼の出されたサイボーグを眺める。取得情報が何処に保存され、どう動いたかの調査は終わっている。なんで後生大事に持っとくかね、腕に自信がないならとっとと動かしとくべきだろ等々と考えている最中にかけられた言葉だった。
「おれだよ、1952だ! ヘリオスの時に同時接続していた——」
「黙れって!」
 カートの拳が基盤の露出した頭部に振り下ろされる。ひしゃげる音と悲鳴が重なった。限界を示す警告音がサイボーグから鳴り響いて、カートが頭を振って配線を引きちぎっていく。処分方法に指定がなくてよかったなぁ、とマックスは過敏になりすぎているカートの様子を窺った。配線が千切られる音、金属の擦れ合う音、火花の散る音、冷却液が噴き出す音、すべてにカートは苛立っている。だいぶ混ぜ物があったのだろう、マックスはサイボーグの胸部が破壊される音に合わせて近くの椅子に腰掛けた。証拠写真が撮れるようになるまで時間がかかりそうだ。めんどー、とぼやきながらマックスは己と同機体のサイボーグが破壊され尽くすのを待つため、スリープモードに切り替えた。自動起動は30分後で良いだろう。△△△