アーラシュの肌の熱さは、パラケルススの体に、よく、馴染んだ。包まれた指先と、耳から潜り込んだ吐息の熱が身の内を満たして、肋骨に守られた心臓をすっかり焼べている気持ちにさせられ、炎を逃がそうと足掻くように息を吐こうとして開いた口すらもアーラシュの熱を受け止めるだけの器官にさせられる。水底に沈みきった視界に、精悍なつくりの顔が間近に映り込む。これほどの熱を発しているというのに汗一つ浮べないまま、それでも浮かされているように眉を顰めた表情が。パラケルススは流し込まれるぬるい唾液を嘔吐いてから、顔をそむけて口づけから逃れた。首を覆いきる襟に指がかけられる。チョーカーごと下げるように無理矢理に引っ張られ、パラケルススは白くしめった肌をさらけ出した。皮膚に固い歯が当たると、薄い肉を挟み込むように閉じられる。馴染まされるように弱い刺激が、ゆっくりと痛みを伴って強まっていく。首筋を伝った生暖かい感触は、己の血であるのか、アーラシュの唾液であるのか。パラケルススは呻きながらかすかに頭を振った。
「これ以上は」
腰を撫でた手が殊更ゆっくりと下着の中に潜り込む。乾いた指の皮が内股を辿り上げて、窄まったそこを軽く押し込んでくる。ゆるやかに擦られるも乾いたまま濡れることのない場所を、アーラシュの指は飽きることなく撫でている。パラケルススは震えた息を吐きながら、アーラシュの腕に手を押し付けた。困惑したまま、よしてくれと訴える顔だ。アーラシュは、つややかに光るパラケルススの唇に己のものをそっと押し付けて答えを返す。舌先で薄い唇をつついて、端まで舐めてからもぐりこんで歯を撫でる。一段と泣きそうな顔を浮べてパラケルススは身を強ばらせた。それを契機に指がぐっと中へ押し入る。痛みに呻きながらパラケルススはアーラシュの胸元に額を押し付けて、小さく声をこぼした。いやだ、と。パラケルススの言葉は聞こえないとでもいうように、暴く指の動きは乱暴で、気にかけないものだ。ただ痛みだけに声を上げながら、パラケルススは細い声をとぎらせて、アーチャー、と呼びかけた。息を詰めた音が微かに鳴る。痛みの中に投げ出された感覚は鈍いまま、内股をぬるりと濡らすものに気がつかせる。錆びた臭いがした。アーラシュの指が遊び飽きたようにずるりと引き抜かれる。低い音が響いた。膝まで降ろされ、外気の冷たさが肌を包み込む。その中で、触れるアーラシュの熱さはやはり何処までもパラケルススの体に染み落ちて、馴染んでいった。怯え言葉を忘れた、幼子のように頭を振りパラケルススはアーラシュを拒否する。力ない抵抗を意に返すことなく、細い足を開かせてる手はあまりに強い。無理矢理に突き立てられた熱が、体の中を焦がして痛みは一層強くなった。悲鳴すらまともに吐き出すことも出来ず、詰まらせた息を嘔吐いてパラケルススは己を害する存在へと縋り付いた。鼓膜がぼうぼうと燃える炎を拾っていて、それ以外は何も聞こえはしなかった。痺れた爪先が堪え難い暴力に応えて丸まっていく。パラケルススは炎に嘗め尽くされて浚われていく錯覚に囚われる。アーラシュの持つ熱すべてが。
「なあ」
額同士をすりあわせながら、瞬いた黒真珠は片時も逃すことなくパラケルススを映し込む。苦痛に歪んでなお崩れることのない相貌が、血の気を失ったままに輝く瞳を見返した。刻まれた声が薄く開いた口から垂れ落ちる。パラケルススはぐちゃぐちゃに潰される体の中を漠然と思った。響き続けるぬかるんだ音は、潰され溶けた内臓が掻き回される音に違いがないと。痺れた脳が思考を細切れに捨てていくと、ぽっかりとした意識を満たすものは、ただ炎の熱さそれだけだった。
「キスしないか」
鼻先が触れ合ってから、唇の形を確かめるように舌がぬるりと這い回る。パラケルススはゆっくりと口を開いた。生温い温度を焦がしてぴったりとくっついた舌は、溶けて一つになったようにパラケルススの制御から解き放たれる。アーラシュの舌がずるりと歯と頬とを撫でる合間も、寄り添うようにパラケルススの舌は動いていた。やがて身をくねらせて撫で合うときは、まるで捩り合い絡まる蛞蝓になったようでもあった。アーラシュの炎に溺れてパラケルススは満たされる体に最後の一辺まで燃やされようとしている。しかしそれを理解するだけの意識は、とうに喪われていた。