「次はクリスマスの星、クリスマスの星だ。よい子の乗客樣方は存分に楽しんでくるがいい。なお停車時間は72時間となる」
サンタ衣装に身を包んだ車掌が通路をゆったりと歩んでいく、それを見送ってパラケルススは窓の外を見た。停車する星は随分な明るさがあるのだろう、ちらばる小さな星たちが光を受けてきらめいている。やがてクリスマスの星が姿を現した、白い星は柔らかな人工光でちかちかと輝いて、パラケルススは眩しさに目を細めた。
「きれいな星だなあ」
声がして、熱さがパラケルススの手を包み込む。目の前に座る男がくたびれたマントから逞しい腕を伸ばして、手を握りしめてきたのだ。「降りてみないか」パラケルススは黙り込み、腕を引くが、握り込んでくる力はますます強くなった。「いいえ……」と小さく答える。がこん、と大きく音が鳴って車体が揺れた。速度を落とした列車が星の中へと入っていく。
「なら俺も」
ごとごとと揺れながら、やがて止まった列車が勢いよく煙を吹き出した。窓から見える景色はすっかり一面が雪に覆われていた。白く厚い雪の中に、家々が建ち並んで柔らかな光を発するイルミネーションが飾られている。ちかちかと点滅する電光掲示板には歓迎の言葉が流れていた。
「なんだ、貴様ら降りないのか」
最後列まで案内が終わったのであろう、戻ってきた車掌は座ったままの二人に声をかける。「降りないらしいから」笑って伝えられた言葉に、パラケルススはばつの悪い表情を浮かべ俯いた。
「そうか。私は降りるぞ」
「なんだい車掌さん、珍しいじゃないか」
「フン、なんといってもお気に入りの星だからな。クリスマスは最高だ、ターキーが一段と美味い」
「ははは。そりゃいい、楽しんできてくれ」
当然だと言って立ち去ろうとして、扉を開きかけた車掌は振り返り言葉を続けた。
「ちなみに降りないといっている奇特な乗客は貴様たちだけだ」
とたん、パラケルススは先ほどの発言を後悔した。閉まる扉をいますぐにこじ開けるべきだ、とも。立ち上がろうとしたパラケルススの肩を押さえ込んで、男は柔らかく微笑んだ。「二人きりだと」掴む手が動いて、指先が甲に浮かぶ骨と血管を撫でる。指の股をつまんでから、指と爪とを撫でられる。ぞわぞわと、寒気が背を駆け上りうなじに留まった。
「あの、」
「寝台車に行こう」
言葉を遮って、男は立ち上がる。パラケルススは耐えきれずに声を荒げ男の名を呼んだ。アーラシュ、それを聞くと、男——アーラシュは一度窓へ視線をやってから「けど」と返す。「さむいのは、好きじゃないんだろ」続けながら腕を引いて、パラケルススの腰を抱きとめると強引に足を踏み出した。追い縋るように車窓から見える雪景色に目をやる。はしゃぐ子供に手を引かれた母親が、街へ向かって歩んでいた。